2026 年 3 月 26 日、Notion が「Think Together」というキャンペーンを出した。
僕は Notion 認定コンサルタントとして、Ivan Zhao の発言を 2022 年ごろから追いかけている。Notion の共同創業者で、京都に 1 か月滞在して製品を作り直した話を、あちこちで話している人だ。
Think Together の 1930 年 IBM「Think」、1997 年 Apple「Think Different」に続く産業史の三点目という置き方は、いかにもIvanらしい。だからその日、Notion公式ブログの直近の長文を、身構えて開いた。タイトルは「Steam, Steel, and Infinite Minds」。2025 年 12 月公開。AIとNotionの未来について Ivan の名前で出ている文章だ。
僕はそこに、ある言葉が出てくると思っていた。
たぶん出てくるだろうと思っていた言葉は、5 つあった。「craft(工芸)」「editor(編集者)」「editorial(編集の)」「taste(審美眼)」「curation(選り分け)」。Ivan はこれまで、こういう言葉で Notion の思想を語ってきたからだ。だから、AIのブログでもたぶん出てくる、と思っていた。
検索してみた。
「taste」。0 件。
「craft」。0 件。
「editor」。0 件。
「editorial」。0 件。
「curation」。0 件。
1 回も出てきていなかった。5 つ全部が。
代わりに本文に並んでいたのは、steel(鉄鋼)、steam(蒸気)、infinite minds、agents、Carnegie(カーネギー)、Red Flag Act(赤旗法)、30-40× engineer といった言葉だった。19世紀の工業革命の言葉で、AIのブログが書かれていた。
「human scale(人間スケール)」という言葉だけは 2 回出てきた。ただし、どちらも「AI時代には人間スケールは維持されない」という批判文脈だった。
正直に書くと、最初は自分の検索ミスを疑った。別の言い換えを使っているのかもしれない、と思ってもう一度探した。でも、違った。Ivanが書いたはずのAIのブログには、IvanをIvanたらしめていたはずの言葉が、文字通り1回も出てこない。
ここで僕は一度立ち止まった。
一番ありそうな解釈は「Ivan は 2025 年の終わりに考え方を変えたんだ」というものだ。AI を前にして、思想家から産業人へ切り替えた、と読めばつじつまは合う。
でもそれなら、同じ 4 か月の中で起きた、もう一つのことが説明できない。
2026 年 2 月末、Ivan は Reid Hoffman が運営する Possible というポッドキャストに出ていた。Appleポッドキャストに載っている公式のエピソード紹介文には、その回の内容がこう書かれている。
「in an AI-powered future, human judgment, taste, and values matter most(AI に動かされる未来では、人間の判断、審美眼、価値観こそが最も重要になる)」
「human scale in an AI-driven world(AI が駆動する世界における人間スケール)」
書面には 0 回だった言葉が、口頭では並んでいた。しかも「人間の判断」「審美眼」「価値観」「人間スケール」と、Ivan を Ivan たらしめていたはずの言葉が、そのまま。
音声の実物は僕はまだ聞けていない(ポッドキャストの本編は公式の有料配信内にある)。だから逐語の位置までは確認できない。でも、少なくとも公式のエピソード紹介文が、Ivan の言葉としてその 4 つを載せている。これはただの誤記や意訳ではない。番組側が「Ivan が今回の回で伝えたこと」として配信コピーに載せた言葉だ。
同じ人間が、同じ 4 か月のあいだに、書いたときは一度も使わなかった言葉を、話したときは何度も使っていた。
ここで起きていることは、たぶん僕らが普段「Ivan Zhao は思想を変えたのか、変えていないのか」と聞くときに使う二択では、うまく掬えない。
「Think Together は編集思想の宣言なのか、AI 戦略の宣言なのか」という問いも、たぶん違う。書面だけを見れば AI 戦略宣言にしか読めない。口頭だけを聞けば編集思想宣言にしか聞こえない。
問いは、こうなる。
なぜ、書くときと話すときで、違う言葉を使ったのか。
そしてその非対称そのものは、僕らが今後 CEOの発話を読むときに、何を教えてくれるのか。
ここから先は有料パートで書く。観察をただ並べる話ではなくて、同じことを Altman や Amodei や Nadella にも適用できる「読み方」に変えたい。CEOの発話を媒体ペアで読む 3 ステップの手順と、Think Together というキャンペーンを「媒体別に編集された一つのキャンペーン」として再構成する読みを渡す。
