Notionコンサルをやっていると、たまにびっくりする画面を見せられる。「これ、何してるんですか?」と聞いたら、答えが意外だった。その話はすぐ後にする。

2026年3月、Notion 3.4がリリースされた。目玉はプレゼンモードとタブブロック。ページをそのまま映せるし、横のタブで中身を切り替えられる。便利な新機能、と思った人が多いと思う。

でも、この話にはもうちょっと深い層がある気がしている。今号はそこを掘ってみる。

クライアントの画面を覗き込んだとき、最初に見えたのは空白だった。

改行が20行くらい並んでいる。その下に文章がある。そしてまた改行、20行。

何をしてるんですか、と聞いた。

「スライドを作ってるんです」

Notionの中で改行を余白に見立てて、スクロールするたびに画面が切り替わるようにしている。PowerPointに書き出すんじゃなくて、Notionの中で作ったものを、そのまま見せたい。だから改行20行。

最初はちょっと笑った。でもしばらく見ていて、これはけっこう切実な話だと思った。この人は「見せたい相手」がいたのだ。Notionで考えたことを、変換せずにそのまま見せたかった。改行20行は、そのための工夫だった。不格好だけど、切実な。

2026年3月、Notionのバージョン3.4がリリースされた。目玉はプレゼンモードとタブブロックの2つ。

プレゼンモードは、ページをそのままスライドとして映せる。区切り線を入れると、そこがスライドの切れ目になる。飾りは何もない。中身がむき出しになる。ベータ版で、Plus以上のプランでしか使えない。

同じ時期に出たタブブロックは、横のタブで中身を切り替える。Notion公式が「もう縦に延々スクロールしなくていい」と言っていた。縦にだけ伸びていくページに、横の切り替えが入った。

僕の最初の反応は「便利だな」だった。この2つは別々の機能に見えるけど、組み合わせたときに本領が出る。Notionのページは基本的に縦に長い。タブがあると情報を横に逃がせるから、1枚のスライドの中で見せたいものに集中できる。

でも、しばらくしてから引っかかった。

区切り線のことを考えていたときだ。区切り線は、もともとブロックをまとめるときの目印として使っていた。「ここからここまでがひとかたまり」という境界線。整理の道具。後からブロックをトグル化するときにも、明確なトグル範囲をコントロールするのに使っていた。そこにプレゼンのスライド区切りという、まったく別の役割が乗った。

同じ1本の線なのに、仕事が変わっている。

整理の道具が、演出の道具になった。「ここで話を区切る」だけだった線が、「ここで観客の目を切り替える」線になった。そして「読む」と「見せる」が同じページに同居し始めたとき、急に「横の感じ」が出てくる。Notionはずっと縦だった。ページを作る。下に書く。下に伸びる。どこまでも下に。それが横になった。

巻物にはページがなかった

これはNotionの話じゃない。もっと前の話。

巻物の時代、文字は巻いた紙を横に広げて読むものだった。端から端まで、途切れなく続いている。途中で誰かに「ここを見て」と言うのが難しい。どこが「ここ」なのか、指で押さえて巻き戻さないといけない。ページ番号という概念がなかったから。連続した情報の流れの中に、区切りがなかった。

冊子本が生まれて、ページをめくるようになった。ページに番号がついた。「23ページを見て」と言えるようになった。同じ場所を、離れた人と同時に開ける。

ただ、正直に書くと、巻物から冊子本への転換は「観客が変わったから」ではなかった。主な理由は実用性だ。携帯しやすい、参照しやすい、途中から開ける。数世紀かけて徐々に起きた変化で、Notionのソフトウェア更新とは時間の尺度がまるで違う。

Notionと巻物が重なるのは「連続した情報に区切りが入った」という一点だと思う。巻物には切れ目がなかった。冊子本になってページという区切りが生まれた。Notionも、縦に流れるだけだったページに区切り線でスライドの切れ目が入った。完全に同じ構造ではない。でもパターンとしては似ている。

じゃあ「観客が変わった」のは、どこで起きたか。

読者ができた日

1942年、アンネ・フランクが隠れ家で日記を書き始めた。

13歳の女の子が、自分のために書いていた日記。読者はいない。自分だけが読む。宛先は架空の友人キティー。

1944年3月末、ラジオで声が流れた。オランダ亡命政府のボルケステイン大臣が呼びかけていた。「戦争が終わったら、日記や手紙を出版すべきだ。記録を残すべきだ」。

アンネはそのラジオを聞いた。

それから約2か月後の5月20日、アンネは日記を書き直し始めた。研究者はこれをA版とB版と呼んでいる。A版が最初の日記。B版が、出版を意識して書き直したもの。

同じ出来事を書いているのに、B版は文体が変わっている。母への批判を和らげ、文学的な描写を強めた。「出版されるかもしれない」と思った瞬間に、書き方が変わった。A版にもキティーという宛先はあった。読者意識がゼロだったわけじゃない。でもB版では読者の範囲が広がっている。不特定多数の人に向けて、自覚的に書き直している。私的な記録者から、自覚的な書き手への転換。

読者ができた。それだけで、同じ日記が違うものになった。

あの改行20行のクライアントも、たぶん同じだった。Notionの中で作ったものを「誰かに見せたい」と思った瞬間に、ページの作り方が変わった。改行を余白に見立てるという、ちょっと無理のある方法で。

ページの機能が変わったのではない。ページの観客が変わった。少なくとも、僕にはそう見えている。Notion自身は「観客が変わった」とは一言も言っていない。公式の説明はあくまで「プレゼンを簡単に」「スクロールを減らす」。これは僕が使い手の側から見た、1つの見立てだ。

ここまでが「何が変わったか」の話。

ここから先は「それがどこまで届くか」と「あなたのページはどうか」の話。

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