やめました

時給5万円のNotionコンサルタントは、疲れたのでやめました。

一応、Notion認定コンサルタントです。日本で4番目になりました。

Notionコンサルティングの仕事は、だいたいこういう流れでした。問い合わせが来る→ミーティング→提案書+要件定義→ミーティング→見積もり→契約する→キックオフミーティング→…ようやく始まる。

相手にとっては高い。僕にとっては、何十時間使うが、体は1つだけ。キャパシティには限界があります。稼働を増やすと品質が落ちる。品質を落とすと意味がない。

そして何より、Notionって自分たちで作るのが一番いいんです。外から来た人が作ったものは、その人が去った瞬間に止まります。チームに1人、ちょっと詳しい人がいるだけで全然違う。そういう人のことを、「チャンピオンリーダー」と呼んでます。

だから、やめました。

ただ、やめたあとに気づいたことがあります。

自分の値段を分解してみた

やめた後に、ふと気になって自分の時給を分解してみました。

たとえば、あるクライアントとの1時間のミーティング。終わった後に議事録をまとめて、こういうふうに設定するといいですよ、というメールを送る。翌日に「できました」と返事が来る。

これ、冷静に見ると、5万円のうち3万5千円分くらいはメール・チャットで済んでいる内容でした。

専門知識の7割から8割は、実は再利用可能な知見です。同じ質問に、少し違う言い方で、何度も答えている。データベースのリレーション設計、権限設計のパターン、ページ構成のコツ。聞かれることの大半は、パターンがあります。

ある30人くらいの会社で、半年かけてNotionを入れたことがあります。設計もちゃんとやった。マニュアルも作った。月1回のフォローもやった。でも、僕が離れて3ヶ月後に見に行ったら、ほぼスプレッドシートに戻っていました。

正しいものが定着するとは限らない。

一番勉強になったのは僕のほうでした。クライアントの現場を見るたびに、自分のNotion観が更新される。教えているようで、教わっている。この感覚だけは、たぶんコンサルをやった人にしかわからないと思います。

じゃあ、教えるってそもそも何だろう。

グーテンベルクに怒られた人たち

1476年にパリの写字生たちが印刷機を壊しに行った話があります。

活版印刷が広まると、写本を作る仕事がなくなる。知識を独占していた人たちが、知識の流通に怒った。でも印刷機は止まらなかった。

面白いのはその後です。壊しに行った写字生の一部は、印刷所で校正者になりました。手書きで写本を作る仕事はなくなった。でも、活字の誤りを見つけ、正しい文を選び、読みやすく整える仕事は残った。知識の独占者が、知識の品質管理者に変わった。

さっきのスプレッドシートに戻った会社のことを思い出しました。あの会社に足りなかったのは、たぶん僕の設計じゃない。「これ、ちょっとおかしくないですか」と言える人が中にいなかった。写字生が校正者に変わったように、外から来た専門家が中の目利きに変わる道があったのかもしれない。

教えればいいのか。たぶん、違います。

司書は本を書かない

図書館の司書は、本を書く人ではありません。でも、どの本にあなたの答えがあるか、あなたより先に見つけてくれます。

1900年代初頭、アメリカの公共図書館に小さな変化がありました。カーネギーが全米に建てた図書館で、司書の仕事が変わり始めた。それまで司書は、本の場所を教える人でした。「その本は3階の棚の右から4番目です」と答える人。

でも、利用者が本当に知りたいのは、棚の位置ではなかった。「自分が何を知りたいのか」がまだ整理できていない人が、カウンターに来ていた。

そこで司書は「何を知りたいのか」を一緒に整理する仕事を始めました。レファレンスサービスと呼ばれるようになったこの仕事は、答えを渡すのではなく、問いを整える仕事でした。

「教える」ではなく「見つけ方を一緒に探す」。これが僕のやりたかったことに一番近い気がしました。

ただ、一緒に探すにも、条件があります。

隣の田んぼを見に行く

1900年代初頭、アメリカの農業普及員シーマン・ナップは、農家に新しい農法を教えるのをやめました。

きっかけは、綿花を壊滅させたボール・ウィーヴィルという害虫でした。従来の農法では太刀打ちできない。政府の専門家が新しい対策を教えに行っても、農家はなかなか動かなかった。遠くから来た人の話は、正しくても響かない。

ナップがやったのは、うまくいっている農家の隣に別の農家を連れていくことでした。「この人の畑を見てください」。それだけ。

120年経った今でも、農業普及の基本はこれです。専門家が教えるより、隣の農家の一言が効く。

たぶん、Notionも同じです。

時給5万円のコンサルに聞くより、隣のチームで同じことをやっている人に「それ、どうやってるの?」と聞いたほうが早い。

でも、隣に誰もいなかったらどうするか。見に行ける距離に、同じことで困っている人がいなかったら。

ノチコンは、その「隣の田んぼ」です。Discordに入れば、隣に来られます。月25ドルで。

本編はここあたりまでが有料で、この先は有料、なんてことをやります。

全部無料です。ただし、有料です

週刊ノチコンはそんな存在でありたい。全部無料です。ただし、有料です。

矛盾しているのは分かっています。

記事は全部読めます。途中で切ったりしません。無料パートだけで毎号完結するように書いています。

ただ、Notionの話をしているようで、実はNotionの外でも使える考え方の話をしている部分があります。AIを使うとき、別のSaaSを選ぶとき、チームで何かを決めるとき。Notionを入口にして始まった思考が、気づくと仕事全体に広がっている。その部分は、有料です。

なぜか。

情報は配れる。考え方は、伝えないと届かない。

伝えるには手間がかかります。調べて、考えて、書いて、読み返して、「これ、本当にそうか?」と自分に聞いて、もう一回書き直す。無料で出している部分も同じことをやっていますが、有料のほうは、もう一段深くやっています。

無料にしたら、有料の時より手を抜けなくなりました。

お金をもらっていると「まあ、これくらいでいいか」が、ほんの少しだけ出る。無料にした瞬間に、それが消えました。読む理由がお金じゃないから、内容で読んでもらうしかない。

冷静に考えると、これは毎回選ばれ続けないといけないということです。契約がない。義理もない。今週の号がつまらなかったら、来週はもう開かれない。

怖い。正直、怖いです。

でも、怖いから面白い。毎週「これで読んでもらえるか」と考えている時間が、たぶんコンサル時代の提案書を書いている時間より、ずっと密度が高い。

農業の世界で、150年くらい前に同じようなことが起きていました。新しい農法を広めたいとき、最初は専門家が農家を1軒ずつ回って教えていた。でも、それでは広がらなかった。知識って、渡しただけでは貼りつかないんです。受け皿がないと滑り落ちる。

転機は、農家同士が集まって話し始めたときでした。「うちではこうやった」「それ、うまくいった?」「いや、土が違うからこう変えた」。専門家の解説ではなく、同じ立場の人の「やってみた話」が一番広がった。

僕がコンサルをやめて無料で書くことにしたのは、たぶんそれと似た理由です。1対1で教えるより、考え方を共有するほうが遠くまで届く。150年前に農業が証明したことを、いまNotionの世界で試しているだけかもしれません。

7割は同じ話だった。でも——

色んなNotion相談を受けてきて、気づいたことがあります。

7割は同じ話です。

データベースを使ったほうがいい。ビューを分けたほうがいい。権限設計は最初にやったほうがいい。テンプレートを作ったほうがいい。

でも、同じ話をしているのに、相手の現場が違うと全然違う話になる。

ある小さな工務店で、IT経験ゼロの現場監督がNotionを触り始めた時のことです。建設現場20年のベテランで、パソコンはほとんど使わない人でした。僕がデータベースの3段階層を作って、「これで現場・工程・タスクを管理できます」と説明した。彼はしばらく画面を見て、「なんか、嫌な感じがするんですよね、この構成」と言いました。

理屈じゃない。でも、その直感は正しかった。半年後、その3段階層は本当に破綻しました。現場の人間には、工程とタスクの区別が曖昧な仕事があった。僕の設計は、教科書的には正しかったけど、現場の手触りを無視していた。

将棋の棋士が盤面を見て「嫌な感じがする」というのと、たぶん同じです。毎日使っている人にしか育たない、言葉にならない感覚。

これと似た話が医療の世界にもあります。治療のガイドラインは山ほどある。でも、ベテランの医師はガイドラインをそのまま適用しない。目の前の患者を見て、自分の中にある判断で動く。同じ知識を持っていても、読んだだけの人と、自分の中に回路ができた人では、判断が全然違うものになる。

僕はその「回路」を教えることはできません。でも、回路が育つきっかけを毎週届けることはできるかもしれない。

同じ話が、違う話になる場所

毎週、似たような話を書いています。

でも毎回、読者から返ってくる反応が違う。同じデータベース設計の話なのに、製造業の人と広告代理店の人では、引っかかるポイントが全然違う。当たり前ですけど。

先日、ある読者から「データベースの話をされているのに、途中から自分のチームの問題に見えてきた」というメッセージをもらいました。僕はNotionの構成の話しかしていないのに、その人には組織の構成の話に見えていた。

これが毎週起きます。

たぶん、僕が書いているのは「Notionの使い方」ではなくて、「考え方の道具」です。道具は、使う人によって変わる。

全部無料です。ただし、有料です。

この矛盾は、矛盾のままでいいと思っています。読んで「へえ」で終わる人には、無料の記事です。読んで、自分の現場で使ってみて、何かが変わった人には、たぶんそれが有料の部分です。

同じ話が、あなたの現場で違う話になる瞬間があるかもしれない。

また来週。

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